ハハノシキュウが看破した「戦極MCBATTLE」違和感の正体 革命は成っていた
2019.09.25
2019年には小説家デビューも果たしたラッパーのハハノシキュウ。
お客さんからその場で出させたお題を盛り込んで即興で演じる落語の「三題噺」にちなんだ日記。一席目は 「水素水」「公開処刑」「樹海」。
「水素水」を温めたものの呼び名について考えている。
「水素水」という名詞には「水」が二つ入っている。
それが僕の頭を悩ませている。
例えば、ソーダ水を温めたらソーダ湯だ。
炭酸水なら炭酸湯。天然水なら天然湯。
そのレトリックなら当然「水素湯」に辿り着くと思う。
だけど「水素湯」じゃどうも半分しか温まってないような気がする。
摂氏何℃だろうがぬるま湯に見えてしまう。
だからと言って「湯素湯」だと、どうも「水素」が逃げてしまって、効果を期待できないような気がする。
僕は実家の湯船で足を伸ばしながら、答えを出せずにいた。
母親が「水素水」にどハマりしていた。
頭の良くなるCDとか送ってくる人だから「まあ、平常運転だな」と油断していたら「お風呂のお湯も水素水にしたのよ」と聞いてそれはさすがに少し引いた。
さらには墓参りで墓を洗う水まで「水素水」だったりして、息子としてはもう笑うしかない。
僕は信じられないものを「水素水」と呼んでいる。
気付いたらもう2019年だ。
なんて思っていたらもう年末だ。
そろそろ「『フリースタイルダンジョン』の特番がAbemaTVで放送されんのかなぁ」ってアラームみたいに季節を憂う。
憂いたところでちょうど宣伝動画が発表された。(ちなみに正確には『フリースタイルダンジョン』ではなく『フリースタイルMonsters War』という別タイトルになっている。まあ、おそらく大人の事情だろう)
いや「公開処刑2020」はナシだろ!
宣伝動画を観た僕は柄にもなく怒っていた。
「公開処刑」は実際に人を殺したことのある刃物だ。
それをすげー軽いノリで後輩たちに握らせる神経はちょっと怖い。
と言ってもパッと見はただのナイフだ。
人殺しに使われたナイフで、皮を剥かれたフルーツが目の前に並んでいる。
ナイフについて知らん人にとっては贅沢な盛り合わせ。
気持ち悪いなぁって思う。
自分が年老いてしまったことを含めて。
放送でどういう意図があってそうしたのかを知れたらいいなぁと思う。
ちゃんとした理由があるかもしれない。
この日は「凱旋MC Battle 東西選抜秋ノ陣2019」だった。
「凱旋MC Battle」は「新規でバトルを観に来るお客さん」を物凄い勢いで増やし続けている怨念JAPくんのイベントだ。
秋ノ陣では3人1組のチーム戦システムが採用されていた。
チーム編成は僕(ハハノシキュウA)とMC松島とハハノシキュウB(正体は明かしてない)。
まるで「水」と「素」と「水」がチームを組んだみたいなビジュアルだ。
一回戦の相手はMRJチーム。
また、この「MRJ」も「凱旋MC Battle」に引けを取らず若年層の「新規でバトルを観に来るお客さん」を増やし続けているイベントだ。
このMRJチームのリーダーがMC派遣社員という男で、渋谷のclub bar FAMILYを毎週パンパンにしている敏腕オーガナイザーだ。12月26日には遂に恵比寿LIQUIDROOMでオールスター戦を開催するらしい。
彼らのチームはMC派遣社員、ゴギガキガキゴ(9for)、NillNicoという編成だった。
この試合は前髪越しでも直視できないくらい派遣くんが滑り散らかしていて、ハハノシキュウを2人用意したというのに、それが霞んでしまうというとんでもない自体に陥った。
試合では勝ったが、インパクトを残したのは派遣社員だった。
挙げ句の果てには彼を叩くYouTubeのコメント欄が酷すぎて、コメント欄そのものが閉鎖されてしまう。そして、閉鎖されたことがまた話題になる。
当人が本気で傷ついているかどうかはともかく対戦相手として、美味しいところ(コーンフレーク以外)をすべて持っていかれたことには変わりはない。
我々の完敗である。
コーンフレークしか残っていないチョコレートパフェは見るも無残な姿だった。
ただ、折角なので裏話を一つしておきたい。
この試合において、僕はMCバトル史に残ったかもしれない大事故を未然に防いだのだ。
まず、第一にこのチーム戦は組む仲間がすでに決まった形で怨念JAPからオファーされた。(他の人らは知らんけど)
僕の場合は「松島さんと組んでほしいです」と最初に提示された。
「あと一人は?」
「好きな人を連れてきてください」
というわけで、早速松島にメールをして3人目のメンバーを話し合う。
「松っちゃん、組みたい人いる?」
この時、僕の頭にはAmaterasとGOMESSが浮かんでいた。
Amaterasだとなんか予想通り過ぎるなぁ。
GOMESSくんのバトルを安売りするのは良くないなぁ。(まあ、出てくれないのはわかっているが)
自問自答しながら、松島の返信を待った。
ちなみにこの時、僕は吉祥寺のとあるラーメン屋にいて、注文したラーメンが三十分待っても来ないことに疑問を抱いていた。
入店時に出された「水」は、すでに氷が溶けそうになっていた。
もう一度言う。
僕はMCバトル史に残ったかもしれない空前絶後の大事故を食い止めた男だ。
ラーメンよりも先に松っちゃんから返信が届く。
「正社員さんはどうかな?」
僕は光の速度で返信した。
「それは無い」
YouTubeの試合動画を観てもらえればわかると思う。
ハハノシキュウBの立ち位置がMC正社員だったら、世界線はどうなっただろうか?
あの先攻での派遣社員のダダ滑りに、後攻でMC正社員まで控えていたら。
想像してみて欲しい。
僕はあの時、世界を救ったのだ。
ちなみにラーメンはオーダーそのものが通っておらず、柄にもなく少し怒ってしまった。
多分「公開処刑2020」を観た時と同じくらい怒っていた。
「『大盛りですか?』って聞きましたよね?『大盛りです!』って俺、言いましたよね?」
サービスで餃子をもらう。
僕はそんな混沌とした感情の中、MC正社員の代替案としてハハノシキュウBを思いついたのだ。
松っちゃんは二つ返事で僕の提案を飲んでくれた。
僕の「水」は氷が溶け切っていて、ほとんどぬるま湯みたいになっていた。
中野駅近くの某リハーサルスタジオにて、僕とハハノシキュウBは衣装合わせと、フリースタイル(モノマネ)の確認をする。
中野ブロードウェイに用事があったせいで、待ち合わせに少し遅刻してしまった。
「ブロードウェイにいた、すまん、遅れる」
とハハノシキュウBにメールをすると「一緒にブロードウェイ行きたかったです!」なんて返事が返ってくる。
自分と同じ格好をした奴に言われてると思うと物凄い違和感がある。
「一緒にいると緊張するんでお酒飲んでいいですか?」
奴はコンビニで500mlの缶ビールを2本買って、気付かない間に飲み干していた。
ハハノシキュウB曰く「フリースタイルより曲の方が完コピ出来ます」とのことだった。
ハハノシキュウBと向き合ってフリースタイルをしたらヴィジュアルの威圧感で凄くやりにくかった。
今までの僕の対戦相手にリスペクトを送りたい。あんなのが至近距離まで迫ってきて邪智暴虐な罵詈雑言を連発していたら誰だって嫌な気持ちになる。
スタジオから出た僕らはアー写を撮るために駅前を散策した。
ハハノシキュウが二人で街を歩いている光景は新手のカラーギャングみたいだと思った。
周囲からチラチラ見られながらもなんとか写真撮影を済まし、あとはハハノシキュウBにご飯でもご馳走して帰ろうと思っていた。
「もう少し一緒にいたいんですけど」
頼むからハハノシキュウBの格好でそんなこと言わないでくれ。
「あの、シキュウさんとカラオケ行ってみた、いんです」
頼まれると断れない性格の僕は結局カラオケに行った。
行ったはいいが、思ったよりハハノシキュウBと音楽の好みが違うみたいで、その選曲はお互いを困惑させた。
「今更だけどさ、あんまりヒップホップ知らないの?」
「シキュウさんは好きっす」
随分、気持ちの悪い絵図になってしまった。
しかも、奴は見るからに酩酊していた。
ハハノシキュウが酔っ払ったら、あんな風になるのか。気をつけようと思った。
最終的には松屋に行って適当にご飯を奢り、ようやく解散という運びになった。
電車の乗り換えで別れる際に、ハハノシキュウBが「帰っちゃうんすね」と漏らした。
「女々しいな」
僕はそう言い捨てて自分の分身と別れた。
奇妙な一日だった。
しばらくして奴からメールがきた。
「女々しくねぇし!!!!」
完全に酔っ払っている。
「ブロードウェイ行きましょうね!」
僕はとんでもない奴を分身に指名してしまったらしい。
あっ、ちなみにそのハハノシキュウBが誰かって言うと。
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