若いオタクはアニメからVTuberに流れたのか? 7つのポイントから考察
2022.07.31
「クリエイターとしての目標はありますか?」
それを言い切る前には後悔していた。当たり前のように投げかけようとしたその問いは、彼女にとっては愚問でしかないと既に理解していたからだ。目標を立て、そのために頑張るというのは至極当然の考え方だが、常軌を逸する天才は「当然」というレールの上を辿らない。
クリエイター
この記事の制作者たち
さえきやひろさんはつくってあそぶ系VTuberとしてデビューし、その名の通りイラストレーターや3Dモデラーなど、様々な領域で創作活動を広げるクリエイターである。
3Dモデラーとしては甲賀流忍者!ぽんぽこさんとオシャレになりたい!ピーナッツくん、名取さなさんらの3Dモデルなどを担当。イラストレーターとしては、滋賀県湖南市の公式VTuber・Minamiのキャラクターデザインや各種グッズイラストを手掛けるなど精力的に活動しつつ、VTuberとしての活動も3周年を迎え、先日は盛大に周年ライブやオリジナルMVの公開を成功させたばかり。
数々の表現に取り組んでは、そのいずれをもハイレベルにこなす。恐るべき創作意欲の持ち主である。
冒頭にも記した通り、何かを目標にものづくりをするという思考回路を彼女は持ち合わせていない。彼女にとってものづくりはそれ自体が楽しいものであり、目的となりうるものだからだ。
そんなクリエイターの鑑のような姿勢を当然のものとして貫き続ける彼女をつくりあげたルーツを解き明かすため、さえきやひろをつくりあげたいわゆるママとしての存在──イラストレーター・路地子としての活動まで遡り、小さなからだに収まりきらないクリエイティブへの情熱を放つその原点へ迫る。
目次
- つくってあそぶ系VTuber・さえきやひろ
- ぽこピーとの出会い、さえきやひろ流モデリングの秘密
- VTuber活動が孤独な創作にもたらした変化
- さびしかった小学校の生活を、やり直すために
- 知る人とぞ知る、“最低”のネットラジオへの参加
- 「なんでもできる」さえきやひろ/路地子の挫折
- 「作品を広めて欲しい」という感覚をやっと理解した
- 「何かを目指してものをつくっているわけじゃない」
──さえきやひろさんは「つくってあそぶ系VTuber」としてデビューされ、今はモデリングにイラストと様々な活動に大忙しのようですがご自身としてはどの肩書がしっくりくるのでしょうか?
さえきやひろ こんにちは! 小学五年生のつくって遊ぶ系VTuber・さえきやひろです! やひろとしては、やっぱりVTuberを一番真ん中に置いておきたいと思ってます。
でも今は3Dモデリングで忙しくて、絵を描くことが少なくなっちゃってて。もっと絵も描きたいなと思ってこっそりTwitterのプロフィールには(イラストのお仕事したい)ってアピールしてました。本当はもっとバランスよくいろいろしたいなぁと思ってます。
──元気の良いご挨拶ありがとうございます。やっぱりモデリングのお仕事はかなり忙しいのでしょうか?
さえきやひろ そうですね。やひろ自身個人で頑張っている身なので、個人のVTuberさんのモデリングの依頼はなるべく優先して受けるようにしていて、できるだけ断らないようにしていたら結構大変なことになっちゃいました(笑)。
「ピピカソ」のMVをつくってからはアニメーションを描いてほしいってお願いもきたりして、イラスト、アニメ、3Dできてぐちゃぐちゃになっちゃってます(笑)。
──その上でご自身のVTuber活動もしっかり続けられているのはすさまじいと思いますが、やはりクリエイター系VTuberとしての活動スタイルにこだわりがあるのでしょうか?
さえきやひろ ものづくりをするVTuberにとっては、自分自身が作品でもあるんです。自分が表現したいものやつくりたいものをつくって、みんなに伝えるのことを活動のベースにしたいですし、あくまでものづくりを主体にしたうえで、VTuberとしても活動したいと思ってます。
──個人勢からのモデリング依頼をなるべく受けるようにしているというお話でしたが、そもそも個人だと予算の捻出や用意なども大変なイメージがあるのですが。
さえきやひろ なるべくサポートしたいなとは思ってますが……たしかに大変ですよね。でも3Dでいっぱい動いて活動するってすごく楽しいことなので、みんなにも体験してもらいたいなぁって思っているんです。実際に手を動かすまでいかなくても、3Dはいいぞっていうのを裏でいろんな人にオススメしたりしています(笑)。
──なぜそうまでして、個人勢のVTuberを支えたいという強い思いがあるのでしょうか?
さえきやひろ 特別、VTuberのシーンに貢献したいみたいな気持ちがあるわけではなくて。活動の意欲がある人たちのお手伝いをしたいっていうだけなんです。3Dをやってみたいけど、知識がなくてできない子がいるなら、こうすれば簡単だよ楽しいよって教えたい。
──さえきさんの活動を見ていると、もしかしたら下手な企業よりも業界への貢献度が高いように思えます。
さえきやひろ 周りの人のお手伝いをしたいって思うのは、ぽんぽこちゃんの影響がすごいあるなって思います!
さえきやひろ ぽんぽこちゃんの周りのクリエイターをすごい大事にする姿勢だったり、みんなを巻き込んで力を合わせてものづくりをするってやり方を近くで見ていたので、私も同じようにできたらって。ぽんぽこちゃんは本当にすごいです。
😿産んだよ😿
改めまして!
フィンダーおじさんのバ美肉の姿を制作させていただきました!
愛してくれ…… https://t.co/C20Uj8aj0l— さえきやひろ💀 (@saekiyahiro) May 21, 2021
──ぽんぽこさんとはもちひよこさん、星咲ちあさんとのユニット「てぇてぇトレイン」での活動もそうですが、相方のピーナッツくんも合わせて3Dモデルを制作されたりと縁が深い印象です。ぽこピーとの交流はいつからはじまったのでしょう?
さえきやひろ 「ぽんぽこ24 Vol.2」の時にCMで応募しようと思って、私がマラソンをしてる映像をつくったんです。その中でワイプでぽんぽこちゃんに応援してもらいたくて、勝手にぽんぽこちゃんの3Dモデルをつくる予定だったんです。
さえきやひろ その時に「推しVTuber」として「さえきやひろを紹介したい」って連絡をもらったので、じゃあ丁度いいしお礼にモデルもつくって渡してみちゃおうかなって。
そんなに本格的に使ってもらうつもりではなくて、あくまで企画のお礼にってくらいの感覚だったんですが、お渡ししたらこれを「ぽんぽこ24」の最後に告知したいって言ってもらえて(笑)。それで、じゃあピーナッツくんも一緒にと思って急いでつくったんです。
──その後、24時間ぶっ続けで制作したというのもいまや伝説になっていますね…!
さえきやひろ 朝につくりはじめて、気づいたら次の日の朝くらい没頭してました(笑)。私も24時間頑張っちゃった!、ぽんぽこちゃんも「24」頑張ってね!って渡したんです。
今思うと、あの時はまだ3Dモデルをつくりはじめたばかりだったので、「凝り方」がわかってなくて。だからあんなに早くつくれたのかなあと思っています。
──さえきさんのモデリングの早さは凄まじいとぽんぽこさんも言っていましたね。現在はどのような工程でモデリングをされていますか?
さえきやひろ 一からデザインするのではなくて、元々いるキャラクターをモデリングする場合は、まずザっと三面図を描いて、それに合わせてモデリングをしはじめます。
テクスチャもかなり早い段階から塗りはじめて、見た目の印象を見ながら細かい部分を調整していく感じですね。
──もともとさえきやひろさんも2Dでのデビューでしたが、そもそも3Dモデリングに挑戦しようと思ったきっかけはなんだったのでしょう?
さえきやひろ もちひよこちゃんが配信でやっていたモデリング講座を見てやってみようと思ったんですけど、難しくて一回挫折しちゃったんです。それで私にはできないな……と思って「無理リスト」に入れておいたんですが、VTuberで活動してるうちにデジおさのメンバーで3D化したいよねって話になってまた勉強しはじめてみたら、いつの間にかみんなできるようになってました(笑)。
最初にはじめた時は一人だったんですけど、二度目は同じように3Dを勉強しだしたクリエイターのみんなと一緒に教え合いながらできたのが大きかったと思います。他の子が先に新しいことができるようになったら、やひろも頑張ろう!って燃えるし、そうやって刺激し合ったり教えあったりしてみんなうまくなっていった気がします。
──クリエイター仲間で情報交換したり、刺激し合う環境があるのは羨ましいですね。3Dモデリングの案件など、たくさん依頼を受けるなかで感じるトレンドみたいなものはありますか?
さえきやひろ う~ん これはVTuberという表現・コンテンツの特徴だと思うんですけど、3Dモデルをつくっても、常にフルトラッキングでの撮影が行える環境があるって人は少ないと思うんです。
YouTubeに投稿する動画としても、全身を映す機会は少ない。普段使いとしてはバストアップで使う場合が圧倒的に多いんですね。だから、ちゃんと全身でつくるけど、上半身のデザインだけでもちゃんと可愛く見えるようにするっていうのは、常にいろんなクリエイターさんが意識していることかもしれません!
──頭に乗せたほねっこちゃんや衣装の随所にある骨の柄など、「骨」へのこだわりを強く感じます。何か骨であることの理由みたいなものはあるのでしょうか。
さえきやひろ やひろはちゃんと実在してる小学生なんだよ!っていう感じを大事にしようと思っています。
なのでリアル世界にやひろのいる写真を投稿したり、あくまで同じ世界に存在してる小学生がVTuberをやってると受け止めて欲しい、骨があって、みんなとおなじ人間なんだよってことを出していきたいんです。
──そういう意味でも、3周年ライブで「裏方としての気持ちが強かったけど、自分が好きになれた」というお話が、すごく実感が込められていて、印象的でした改めて、バーチャルYouTuberの活動を通して、どんな意識の変化があったのでしょうか。
さえきやひろ なんというか…「違う人になった」ってくらい自分の中でポジティブな変化がありました。本当に私は裏方根性が染みついていて、SNSとかにイラストを上げていろんな人に評価されるのが嬉しいってよりは、もうつくったら終わりってタイプで。つくって満足しちゃうから投稿すらしないこともあるくらいに、作品をつくることにしか重きを置いてなかったんです。
でもVTuberとして活動するなかで、わたしのつくったものでみんなが喜んでくれるっていう流れを繰り返すうちに、世界で自分しか興味がないと思っていた自分のつくったものも、世に出せば喜んでくれる人もいるんだってだんだんとわかるようになってきたんです。
VTuberとしてものづくりを発表するようになって、最初の頃はかわいいねって褒められても素直に受け止められなかったんですけど、最近はかわいいって言ってもらえるように衣装や振る舞いを考えられるようになったというか、次第に気持ちが外向きになってきた感覚があります。
今まではものをつくる時って嫌いなものをテーマにすることが多かったんです。嫌いなものでもつくっていく過程で好きになりたいと思って。でも最近はそんなことなくて、楽しかった思い出をテーマにした絵が増えてるんです。作品を並べてみるとグラデーション的にポジティブになってるような感じもあって、じゃあ3周年を一旦区切りにして「ネガティブ編」は終わろうって気持ちになれました。
──今までのやり方とはまさに正反対のスタイルだと思いますが、違和感やストレスを感じることはないのでしょうか?
さえきやひろ 今まではポジティブなものをテーマにしようとしても、自分の中にそういう記憶や気持ちがなくてすごい苦しかったんです。だからネガティブなものをテーマにした方がつくりやすかったのかもしれません。
でも今は徐々にポジティブなものが自分の中に生まれてきてるので、段々と苦しさもなくなっていきました。自分の中にあるものを表現するってこと自体は変わってなくて、ネガティブな思いより楽しい思い出が増えたから自然とつくるものもポジティブになってるんだと思います。
──VTuberとしての活動が創作にも良い影響を及ぼしているんですね。
さえきやひろ 本当にそう思います。自分一人でやっていたら気付けないことがいっぱいありました!
──さえきやひろとしての今後の目標などはありますか?
さえきやひろ 元々目標を立てて、それに向けて頑張るってタイプじゃないのでちょっと難しいんですが、これからも長く続けていきたいって思ってます。やりたいことにいつでも手を出せるようなフットワークの軽さは大事にして、いろんなことに興味を持ちながら、楽しくやっていきたいです!
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