MCバトルという料理は、ヒップホップという器を超えた──「BATTLE SUMMIT」レポート後編
2022.09.17
急転直下。「拙者が運転者」ならぬ「金田一が真犯人」。
※本稿は、2017年に「KAI-YOU.net」で掲載された連載を再構成している
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この記事の制作者たち
続けてればいつか…なんて 思ったけど 奇跡なんて起こりゃしない田我流/JUST(2008年)
ラッパー・ハハノシキュウによるMCバトルコラム連載の第7回である。
ルールは先攻後攻2回ずつ。ハハノシキュウ本人とそれを1歩引いて俯瞰している立場の母野宮子という2人が交互にコラムを執筆していく。
僕は、僕を俯瞰している自分がたまらなく嫌いな時がある。
例えば、好きなアーティストのライブで前の方に行った時に、カメラで客席側を撮られたりする場面。
夢中でライブを楽しんでいたはずなのに、ふとカメラに映る自分の顔を客観視して考え込んだりしてしまうことがある。
そんな自分を振り切って楽しんでこそ、楽しいのではないだろうか? なんて堂々巡りの勿体ない気持ちに駆られることがよくある。
だから、このコラムにおいても、そんな上から目線の自分と戦うことに意義を感じつつも、やっぱり奴(母野宮子)に勝つのは難しいな、なんて思ったりする。
このコラムは“読むだけで口喧嘩が強くなる”という名目で書かれている。
しかしそれは、あくまでも名目に過ぎず「ノーバン始球式」とか「美人すぎる○○」とか「○○だけで痩せるダイエット」とかのように、字面の持つ都合の良さに頼っているだけだなんて感じている人もいると思う。
連載第0回の記事を読んでもらえればわかると思うが、この担当編集である藤木さんはあまりにもハヒヘホだった。
ハヒヘホ、つまり「腑抜け」である。
「フ」抜け、つまりフジキさんではなく、ジキさんである。
ハヒヘホ、つまり「ふなっしー」である。
「ふ」無っしー、つまりフジキさんではなく、ジキさんである。
このコラムを最初から読み直してもらうとわかりやすいが、とにかくジキさんは腑抜けだった。そもそもジキさんは、ヒップホップをほとんど知らなかった。いわばスラムを知らない女子高生だった。
「コインランドリーに行くなら洗濯機を買えばいいじゃない」とマリーアントワネットのようなことを言い出しそうなくらいに何も知らなかった。
僕がKAI-YOUのヒップホップ好きのデザイナーと「妄走族の『バビロンシティ』のMV、剣桃太郎の赤い服がめっちゃ格好いいですよねぇ」なんて話をしている間、ジキさんは「スクフェス」をやっているかのごとく激しくスマホを弄ってたりしていた。
だからこそ、ジキさんは、近年のラップブームの影響をかなり素直に受けた人間の1人だと僕は思っている。
そう、この2015年以降のMCバトルブームの影響を受けて、そして僕の「口喧嘩が強くなるコラム」の担当を経て、ジキさんはラップこそしていないが、MCバトルの文法が身体に入り込んでいるはずだと僕は踏んだのだ。
「クリスマスイブの日に僕が出るライブがあるんです。そこでMCバトルイベントもやってるんです。敷居も高くないので、そろそろバトルに出てみましょうよ!」
僕は、打ち合わせのために足を運んだKAI-YOUの会議室でジキさんに言った。
「いずれそう言われる日が来るんじゃないかと思ってはいたんですよ……(泣)」
さすがはジキさん。腑抜けのくせに話は早い。
「このMCバトルに出て、僕のコラムが本当に『口喧嘩を強くする』効能を持つのか確かめましょう!」
「いいでしょう。ただし、企画会議に通ればですよ?」
数日後。
「MCバトルの件ですが、一大イベントみたいになってしまって……。動画クルーをいれて、ガッツリ撮影することになりました」と、ジキさんから連絡が来た。
さすがはKAI-YOUさん、話が早い。
僕はすかさず返信をした。
「わかりました! そのMCバトルでジキさんが成果を上げたら『フ』を返してあげましょう!」
2016年12月24日、場所は下北沢laguna。
オトウトの課題というアーティストが主催した「Magic the Gathering vol.12」というイベントには、幕間MCバトルという転換時間を利用したトーナメントがある。
これは出場者が10人くらいの小規模なMCバトルで、経験値を積みたい若手の上手なラッパーだったり、初めてバトルに出る人、ヒップホップの畑とは無縁の人などがエントリーするような大会である。
この日、ハハノシキュウはバトルに参加しなかった。
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