マレーシアから世界に届ける“オタク”のヒップホップ YouTuber・アーティストmiraie来日インタビュー
2023.03.08
自身も出演する身としてのラッパー・ハハノシキュウが残してきた「MCバトル」の記録。今回は「戦極MC BATTLE 17章」をお届けする。
※本稿は、2018年に「KAI-YOU.net」で掲載された記事を再構成したもの
撮影:山崎奏太郎
クリエイター
この記事の制作者たち
一生に一度もヒップホップと口にせず死ぬ人もいる中
何度も何度も口にしている俺らは紛れも無く兄弟です神門「素晴らしき世界」
MC正社員「戦極MC BATTLEはようやく俺の手に負えない存在になった」
MCバトルというのはラップだけが即興なわけではない。イベントの企画、運営そのものが即興なのだ。
即興と言えども、この劇場における脚本家はお客さんである。僕ですら積み重ねてきた経験値からなんとなく流れが読めたりする。
どういうドラマが展開されるか冒頭のシーンだけで、ある程度のヤマを張ることができる。
僕程度のレベルの人間でもそう思うのだから、おそらく日本で一番多くのMCバトルを観てきているMC正社員(戦極MCBATTLEの主催だ)ならばもっと緻密に戦局が読めるだろうし、読めた上で脚本に手を触れずに操ることもできるだろう。
しかし、今回は違った。僕はふと『ひぐらしのなく頃に』というゲームの宣伝コピーを思い出した。
「正解率1%」
この「戦極17章」は1%どころか、ほとんど0パーセントを叩き出したとんでもない大会だったのだ。
Twitterでベスト4予想を募っていたが、完全一致で正解するには難易度が高すぎた(なぜならベスト4に僕がいたからだ! とか言っとく)。
では、どうしてそのような結果に至ったのか?
目次
- 「友達を殺す」ことについて
- “殺しにいく試合”の難しさ
- 悪魔王子にしか効かない大技
- ロボットの言葉じゃ人の心は動かせない
- 少年誌vs青年誌──明暗わけたもの
- 価値観を揺るがせたGILのラップ
2018年現在、MCバトルシーンは非常に大きな問題を抱えている。それは友達を殺すことの難しさだ。
これは年齢を重ねるほど思い知らされる。
MCバトルをする上でみんなの共通言語なのかどうかは怪しいけど、時々「殺しにいく」という言い方をする時がある。
これは過度に相手を傷つけることをいとわずに、何が何でも勝ちにいくって意味だと僕は解釈してる。ただ、そう簡単に誰しもサムライになれるわけじゃない。リスペクトしてる相手を本気で斬りにいけるのは、覚悟を決めた者だけだ。
僕、ハハノシキュウはゲストバトラーとして「戦極MCBATTLE17章」に呼んでもらったはいいものの、気合いが入っていたかと言えば、主催の正社員さんには悪いけど全くだった。
会場になる台場駅行きの電車の中で、初めて出場MC全員の名前を確認したくらいだ。確認して「やべ、適当な気持ちでやっていいメンツじゃねぇ」と後悔したりもした。
多分だけど、その気持ちは他のラッパーにも少なからずあったと思う。「ファン感謝祭だよね」くらいの軽さがあったというか、いや決して軽くはないのだけど自己催眠的に軽いと思い込みたい感覚があった。
MCバトルに参加すること自体が“非日常の世界”だったはずなのに、バトルブームによって限りなく日常に近いものになっていた節がある。
僕個人としては「フリースタイルダンジョン」に出て、地上波の力を借り「こういうラッパーもいますけど、お仕事ありませんか?」的なアピールタイムをバトルの結果とは無関係にいただくことができたというストーリーの続きになる。
マイナス思考が売りの僕は「フリースタイルダンジョン」に出たのに人生が変わらなかったことで「俺がいる意味ある?」とかなり卑屈な気持ちを引きずったままでの参加だったのだ。
この日の僕はすごく勝ちたかったというよりは負けたくなかった。
だけど、早く負けて楽になりたい! お酒を飲んで適当に誰かとしゃべりたい! なんて思ってもいたし、楽屋では口に出してFRANKENさんやDragon Oneに言っちゃっていた。
「早く負けて楽になりたいすわ」
不思議なもんで、口に出して言うとそれが「弱気なこと言ってるように見せかけて本当は優勝狙ってるんだけどね」なんて本音を隠すための建前としてしか機能しなくなる。性格の悪い昼行灯の集まりだ。
この「戦極MCBATTLE 17章」は、あんまり好きな言い方じゃないけど“殺しにいく試合”が少なかった。
僕自身、バトルにはなんらかの憎悪を持ち込む必要があると思っていて、2017年までバトルの度に相手の心を抉ることばかりを考えていた。
本当に一戦一戦を対戦相手の引退試合にするつもりで臨んできた。僕のディスが原因でラップをやめてくれたらいいなぁって。
別に嫌われてもいいし、怒られてもいいと。だけど、そんな理想みたいものとは裏腹に憎悪が心の内で生産できなくなっていた。
シーンに対して気に入らないことだったり、ムカつくことが1つもないと言えば嘘になるけど、そこに対して矛先を向けて突っ込んでいく元気が昔みたいに溢れてなかったのは確かだ。
楽屋だったり舞台裏の空気は、「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)や「KING OF KINGS」(KOK)のようなチャンピオンシップとは違ってプライドの重さが和やかさの足を引っ張るような感じはほとんどなかった。
僕たちにとって暗黙の調和がそこにあったからだと思う。
実際にバトルをしても、口にした言葉以外で、お互いに何を言いたいかわかったりしてしまうし、表向きすごくディスり合っていても2人の間には軋轢なんて全くなくて心臓はお互いに無傷だったりもする。
例えば、僕の1回戦の相手はじょう君だった。2500人近くが詰まった大箱で、彼と対峙するのはハードルが高すぎるし、まともにやり合って勝つのは無理だろうなと思っていた。
これは、8小節2本ずつにはおさまらない心理戦だった。マイクを通して言ってない言葉がたくさんあった試合だった。
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