イラストレーター「ざいん」インタビュー アート/イラストの狭間で
2021.09.17
クリエイター
この記事の制作者たち
イラスト評論「ネット絵学」プロジェクトを推進してきたイラストレーター・虎硬がおくる連載「令和のネット絵学」。
第4章では創作物の持つ、思想やその変遷を追いかけていこう。
社会の中でイラストを受容するためにはルールが必要で、創造者に敬意を払われる必要がある。一方でクリエイティブが批判の対象になることもあり、その見方も時代によって大きく異なる。
目次
- 思想とミーム──私たちは自分と同じ考えを持つ人間を増やしたい
- キリ番に相互リンク、掲示板での挨拶……個人サイトでの古のルール整備
- 毒吐きネットマナーの登場──荒らしへの対処法、皮肉な結末
- 「絵を数字化」することの功罪
- イラストと嫌儲思想 2ch発の、インターネットの空気感
- 収益化の安全性──つい10年前まで、投げ銭も嫌われていた
- 止むことがないトレパク騒動 冤罪を助長する被害者感情
- 10年前では考えられなかった、中国、韓国クリエイティブへの評価
- ミームを遡って、歴史から学べるたった一つのこと
インターネットでは「ミーム」という用語で様々なものが流行しています。最近だと「猫ミーム」や「好きな惣菜発表ドラゴン」「ちいかわ」などが有名です。
ミームというものは思想や規範などを表し、それ自体が言語になります。キリスト教や仏教はもちろん、日本語や英語、ロックバンドやクラシック音楽も立派なミームです。
ミームという言葉は進化生物学者のリチャード・ドーキンスの造語です。遺伝子の専門家から由来しているというのが面白いです。ドーキンスは彼の著書『利己的な遺伝子』で「生物は遺伝子のヴィークル(乗り物)にすぎない」と喝破しました。これは、我々人間を含めた生き物はすべて遺伝子の操り人形であり、そのコピーを増やすために存在しているという衝撃的な話です。
元来の意味での「遺伝子が複製体を増やすモチベーションがある」ということは理解できます。人間は社会的な生物であり、肉体的な結びつきはもちろん、考えもある程度共有しておいた方が、強固な集団をつくれるのです。私たちは無意識のうちに自分と似た考えの人に共感し、また周りの人を自分と同じ考えにしようとします。
前置きはこの辺にして、本稿はイラストについてのコラムです。イラストでもミーム、思想は重要な概念で、時と共に進化し、急速な拡大と変化を繰り返してきました。
その進化と変遷の歴史を通して、学ぶべき教訓もあります。
イラストに限らず、創作物は個人の思想やアイデンティティとの結びつきがとても強いものです。その絵柄にかかわらず、作者は自分の作品を身体の一部のように大切にしています。その思いは、練習量に比例しません。絵を描いて間もない人も、作品をぞんざいに扱われたら傷つくでしょう。
そんなイラストをネット上に自由に公開できるようになったのは、2000年代前半のことです。最初期はネット特有のミームはあまり形成されておらず、各々がリアル社会の延長としてのホームページ(HP)に公開していました。
今では考えられませんが、「家族(ホーム)のページ」として、自分や子供の写真や氏名、在住地まで公開している人もいたのです。ネットのリテラシーやプライバシーに対する考え方もある意味ミームなので、これが確立されていない時期に今の”常識”とかけ離れたことが起きてもそれは当然でしょう。
もちろん同時期に、イラストをメインコンテンツとした個人サイトも多数登場しています。そこでは、ハンドルネームで作品を公開。誰が考えたのか、ネット上で交流するためのルールが形成されていきました。今でもネタになる「キリ番踏み逃げ禁止」「相互リンク」「掲示板での挨拶」などの基本的な礼儀作法を含むミームが生まれます。
こういったミームは集団の結束を強固にし、部外者を排除するために機能します。先にも述べたように、作品が誰かに毀損されることは、イラストレーターにとっては公開する上での大きなリスクなのです。
ホームページでの「望ましい振る舞い」が伝播してくると、それが体系だった聖書としてまとめられます。その一つが「毒吐きネットマナー」という名前の個人サイトです。これは主に同人界隈で流行した、ネット上の「困ったさん(毒吐きネットマナーがそう呼んでいた迷惑ユーザー)」に対応する方法や、自分自身の行いを正す考えを身につけるための参照サイトとして爆発的に流行します。
「困ったさん」とは、悪意なく迷惑をかける人のことです。
多くの場合、ネットマナーを知らなかったり、他人への配慮が足りなかったりします。毒吐きネットマナーPlus*困ったさんの叱り方。
毒吐きネットマナーは、そうした望ましくない振る舞いをする人間をホームページから排除しようと促すのではなく、「困ったさん」と「荒らしさん」という言い方で区別化を行っています。
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