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  • 2020.01.07

顔を下にして倒れるのにちょうどいい場所 『CONTINUE?9876543210』

もしもこの世が、完全な天上が落とした不完全な影に過ぎないとしたら?

私たちのこの旅路は、何のためにあるのか。

顔を下にして倒れるのにちょうどいい場所 『CONTINUE?9876543210』

『CONTINUE?9876543210』gallery(Via「continue9876543210.com」)

クリエイター

この記事の制作者たち

人間は、天の影が地上に投影されたものにすぎない、という思想がある。この思想においては、しばしば、人間どころか地上のあらゆる創造物は、すべて天上の理想型の貧弱なコピーにすぎないとされる。

私はこの思想に好感をもっている。人間はつい、事物に原因を求めたくて、「私がこんなにもひどい/よい運命をたどっているのは、神/仏/運のせいだ」などと考えてしまう。しかしこの思想は、世界の成因を押しつける相手として、神のようなものをなにひとつ想定していない。形而上的ではあるが、宗教的ではないのだ。

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プラトン著・藤沢令夫訳『国家』上 Via Amazon

こうした思想を受け容れたときに人間がとりうるアプローチは二種類しかない科学的なものか、禅的なものだ

前者は、文字通り、科学的な方法によって宇宙の秘儀を解明しようとする。ブラックホールの中心ではなにが行われているのか、宇宙の外縁にはなにがあるのか、そもそも時間に始まりと終わりはあるのか。こうしたアプローチは、それ自体が人類によってはじめられた世界の構造に対する誇り高き戦いであり、したがって科学研究の予算を省く国家は、人類にとって恥ずべき汚点である。

後者は禅的なアプローチ、つまり、受け容れることである。このアプローチにおいては、人間は、彼自身の運命や世界の成因をもはや追求しない。そうではなくて、ただ世界の仕組みや構造を、ありのまま受容しようと努める。

じつのところ、このアプローチはとても多くの人によって実践されている。人々はみずからの五感によって世界の構造を感じとる。公園の焚火に両手をかざすときに熱力学を感じ、真夏の軒先に打ち水をするときに重力を感じ、だいじな手術のまえに平静な気持ちでいるときに生命を感じる。

しかしながら、こうしたアプローチはつねに危機にさらされている。とくに若いときなどには、誰の身にも、人生がわれわれに与える出来事があまりにも大きすぎて、その構造や経緯をどうしても受け容れられない、ということが起こってくるものだ。心底愛した恋人が交通事故で死んでしまったとき、すべての人がそのことを受け容れられるとはかぎらない。あるいは、その受容にはかなりの時間がかかる。

このとき、私たちの心に起きるのは、反発である。反抗と言ってもよい。事物の成り行きがそのようにあること、世界の構造がこのようになっていることにたいする反抗心である。こうしたとき、人はじつにさまざまな行いをする。新しい宗教をつくるかもしれないし、小説本の一本でも書いてしまうかもしれないし、旅客機をハイジャックして高層ビルに突っ込むかもしれない。

つまり人々は、ときに自らを破戒者に仕立て上げることで、世界にたいする反撃を行う。殺人者や犯罪者たちが、本人も気づかぬうちにほんとうに望んでいることは、人殺しや略奪ではなく、重力を消し去ったり、可視光線の周波数を変更したり、宇宙を手のひらに収めたりすることなのだ

そして私もこうした秘儀の存在に気がつき、小説に手を染めてしまった人間のひとりであるから、きょう紹介する作品の作者の気持ちがよくわかる。

タイトルは『Continue?9876543210』、天上の世界で、クエストに失敗してしまったキャラクターを描くビデオゲームである。

執筆:藤田祥平 編集:新見直

目次

  1. 『Continue?9876543210』冒険や街の記憶、の断片
  2. 私たちに許された“心の準備”
  3. 倒れるにふさわしい地面を見つけること

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