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  • 2019.09.09

栄光の裏にある“死屍累々” ゲーム業界のダウンサイド

栄光の裏にある“死屍累々” ゲーム業界のダウンサイド

The Dark Side of the Video Game Industry | Patriot Act with Hasan Minhaj | Netflix

クリエイター

この記事の制作者たち

スイカに塩をかけると甘さが引き立つ。

これを専門用語で「味の対比効果」と言います。この対比効果の法則を積極的に取り入れてきたのが、他でもないコメディの本場・アメリカです。アメリカでは「笑い」がことの「深刻さ」や「悲惨さ」を引き立てる道具として古くから用いられてきました。

Charlie Chaplin - Factory Scene - Modern Times (1936)

アメリカの喜劇王チャーリー・チャップリンは代表作『モダン・タイムス』において、資本主義と機械文明の中に生きる現代人の「悲劇」をユーモアで引き立てることで「風刺」の金字塔を打ち立てました。その風刺の精神は現代のアメリカでも根強く残っており、その日に起こった最新のニュースについて笑いを交えながら紹介する「風刺系コメディ番組」が90年代半ば以降から人気を博してきました。

「風刺」はアメリカのコメディ界においては避けて通れない「定番ネタ」です。権力者に批評の目を向け、生活に近いトピックを使って笑いに昇華することで「政治を大衆化」し、ポリティカルなイシューと大衆の媒介者となっています。

Netflixで配信中の『ハサン・ミンハジ: 愛国者として物申す(原題:Patriot Act with Hasan Minhaj)』(以下、『愛国者として物申す』)のホストであるハサン・ミンハジは、そんな風刺色濃いアメリカのスタンダップ・コメディ界に風穴を開ける存在して、いまもっとも注目されているスタンダップ・コメディアンです。

「Supreme」 | 『ハサン・ミンハジ 愛国者として物申す』

同番組内でハサン・ミンハジは、「Supreme」というポップな話題から「インドの選挙」というディープな話題まで、巧みな比喩表現で風刺していきます。

また、そのスタンダップ・コメディ仕込みの話術もさることながら、ハサンの繰り出す風刺の数々は、同番組に携わる一流報道機関出身のライターやリサーチ・チームにバックアップされた膨大なレファレンス、バックに流れるTED風のスライドが彼の話芸に華を添えます。

サウジアラビアのムハン・マドビン・サルマン皇太子を批判したことで番組に圧力がかかったことをうけ、別テーマながらも後半で再度サウジアラビアの王室をディスる「中国の検閲」回(シーズン2 第1話)や、カナダ首相 ジャスティン・トルドーへのインタビューでハサンが切り込む「カナダの二面性」回などは必見です。

「陳腐化」する米・コメディのゲームチェンジャー

日本のお笑い番組では風刺ネタを見かける機会は、あまり多くありません。日本のある大物コメディアンは、日本において風刺ネタは一番「安易」に笑いを取りに行く方法でもあるとも主張しています。逃げ腰な発言ともとれますが、それがあながち的外れな意見ではないともいえないのは、風刺ネタが陳腐化してしまっている近年のアメリカの現状からも理解できます。


「トランプ大統領」誕生以降、一種の「トランプ・バブル」の波に乗り、風刺系のコメディ番組やそれを扱う「レイトショー」番組が爆発的に増えていきました。

しかしその結果、誰がどう見てもおかしい「ツッコミ不要」なトランプの一挙手一投足で笑いをとることは「安易」であり、多くの観客が食傷気味の「定番ネタ」となってしまったのです。

またコメディアンが持つ「人種的背景」は必然的に「風刺性」を帯びるため大きな武器となりますが、彼らが成功していくほどに、観客と同じ高さの目線で日常を切り取ることが難しくなっていくこと、また同じマイノリティーの外に届き得ない「身内ネタ」化してしまう危険性が、(上述の理由もあいまって)増していきます。

『ハサン・ミンハジ: 愛国者として物申す』:「ビデオゲーム業界と労働問題」」

画像は『ハサン・ミンハジ: 愛国者として物申す』:「ビデオゲーム業界と労働問題」」より引用

そんななか、ハサンはインド系アメリカ人である自身のバックグラウンドをときに自虐しつつも、ひとりのアメリカ人の視点から多岐に渡る社会問題を扱うことで、単なる「風刺」にとどまらない、知らない世界への想像力を観客に提供します。その点が、ハサンがアメリカのコメディ界における急先鋒だと言われている所以なのです。

とはいえ、日本人の我々にとっては、彼の笑いのポイントがいまいちピンと来ないこともしばしばです。「アメリカの笑いはわかりやすい」というイメージがありますが、やはり文化的な背景なしには理解できないコンテクスト(文脈性)の高いジョークが多くあり、爆笑する観客を尻目に、損した気分になってしまうことがあるかも知れません。

本連載では、そんな『愛国者として物申す』のエピソード内で、観客のリアクションが大きかったハサンのパンチライン(ネタを締めくくるオチのこと)をピックアップし、笑いのポイントと文脈を解説。「ユーモア」を通して文化的背景を知る、番組の「副読本」として読んでもらえたらと思います。

第1回では、「Supreme」(シーズン1第話)について取り上げました。

今回は「ビデオゲーム業界と労働問題」(シーズン4 第1話)です。

The Dark Side of the Video Game Industry

※『ハサン・ミンハジ: 愛国者として物申す』はYouTubeからも全編が視聴可能(Netflixのみ日本語字幕に対応)

eスポーツの盛り上がりによって、ますます注目を集めているゲーム業界ですが、その裏側にはどんな闇が潜んでいるのでしょうか。

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