『ふれる。』岡田麿里インタビュー 幸せには犠牲が伴う、だからこそ諦めたくない
2024.10.26
クリエイター
この記事の制作者たち
「ずっと楽な道を選びがちな人生だったけど、CHOUJIさんを見てたら、ああいう人になりたいって思えたんですよね」
音楽への情熱と努力でコンプレックスを克服し、今ではその歌声が世の中の人々の胸を打つようになった柊人。しかし、好きな歌だけで食べていけるまで、順調な道のりを歩んで来たわけではなかった。
その詳細は前編で語られたが、東京でデビューを目指していた柊人は借金を抱え、トラブルに巻き込まれる。沖縄に戻ることになった柊人は出稼ぎに出ては沖縄に戻る生活を繰り返した。その最中、支えとなったのは沖縄を代表するラッパー・CHOUJIの存在だったという。インタビューは、そのCHOUJIが東京でワンマンライブを開催した翌日に行われた。
叶えるため下積み 叶えるため直向き柊人「Holly light」
他の多くのラッパーには呆れられ相手にされなくなる中、「音楽をやったほうがいい」とCHOUJIだけは励まし続けてくれた。
決して派手な動きではないが、地元・沖縄でずっと地に足を着けてシーンを支えてきた存在だ。その恩に報いたい──「今度こそ、本気でやってみよう」と、音楽への決意を新たにした。
2019年、CHOUJIとMuKuRoという先輩2人と「packback」をリリースする。
沖縄県外に幾度となく向かった出稼ぎで借金が減ってくると、ようやく高校生以来となる沖縄での本格的な生活をスタートさせた。生活の糧を得るために選んだのは、漁師だった。
撮影協力:不眠遊戯ライオン(@music_bar_lion)
目次
- 漁師時代の恐怖体験語るも「サメよりも……」
- ずっと、楽な道を選びがちな人生だった。けど
- みんな、「好きなこと」のようになれればいい
- 「ゆいまーる」に詰まった沖縄の思い、柊人の思い
- 聴いてくれる人のためにも、中途半端はやれない
- 感情は気まぐれで、今も、弱い自分はいる
- 「THE FIRST TAKE」では、感情移入しすぎて……
- 家族にもようやく認められて。いつか、今度は、きっと自分が
「潜り漁師をやってました。最初は、沖縄で漁師もやってるラッパーのNAGAHIDEさんに教えてもらいながら。船で1時間くらい沖合に出て、タンク背負って、ライトを着けて水中銃とか持って水深20メートルくらいのところに夜中潜るんです。それで伊勢海老とかを獲って」
もともと泳ぐことは苦手ではなかった。
「子供の頃、喘息持ちで入院するくらい酷かったんです。それで水泳をずっとやってたんで」
明るい時間は世界でも屈指の美しさを誇る沖縄の海も、夜になると昼間とは違った顔を見せる。真夜中の海に飛び込むのは怖くもある。「ライトがなかったら、自分も入れないと思うっすね」と柊人は笑う。実際「最初は『これ、俺にはできないかも』ってくらい食らった」という。
「サメとかもバンバン襲ってくるんですよ。ベテランの人は1ミリも動じないで魚採り続けるんですけど、自分はビビってサンゴの間に隠れたりしてました」
それでも、漁師という生業を選んだ。
「周りに迷惑かけたり、自分には弱い部分があったので、潜り漁師を続ければ強くなれるかも、という気持ちもあったかもしれないです」
潜り続けると、次第に慣れていった。
「6匹のサメに囲まれたり。ほとんどは自分らが捕まえた魚をハイエナするのが目当てなんですけど、たまに毒のあるアイゴとかを食べたサメはめちゃくちゃ苛立ってるので人間を襲ってくることもあります。そういう時はすぐに逃げますよね。
でも、人を喰ったことがないサメだったら意外と大丈夫で。最初は鼻でつついて食べられるかどうか、感触を試してくるんです。そういう時は、水中銃の先を当てて『食べられないよ』って伝えるとか。あとは、サメとだるまさんごっこみたいな感じで、向き合うと離れていく、みたいな」
ライトだけを頼りに、サメと対峙するには心許ないダイバースーツで真夜中の海に潜る経験は、想像も及びつかない。陸地で怖いものなどないのではないか。
「そうですね、そうそう怖いことってあんまりない。ただ、サメより人のほうが怖いかな……(笑)。魚は目的がシンプルで、腹が減ったら獲物に興味を持って近づくだけだから」
借金苦に陥ったこともある柊人の言葉には、説得力がある。
漁師の稼ぎは実力次第。生活はその日暮らしだ。
「歩合で、捕れた分だけ。上手な人というか、海に愛されてる人はめちゃ稼げる仕事です。夜中から明け方までずっと潜るから、体力的には一番キツかったですけどね」
度胸や胆力はもちろんだが、その経験が安定した声量に繋がっているようにも思えた。
「それはあるかもしれないですね。タンクに入ってる酸素の量は限られてるんだけど、高級魚や伊勢海老とかがいると興奮しちゃうんですよ(笑)。でも漁が上手い人は興奮せずに呼吸を整えてるから潜ってる時間が長いんで、稼げるんです」
音のない場所でもあの言葉を浮かべた柊人「Amidakuji」
潜り漁師をしながらも楽曲の制作は続けていた。
「潜る場所まで行く船の上ではずっとビートを聴いて、潜ったら水中でビートを思い出して、リリックを考えたりもしてたっすね。漁では魚に殺気が伝わるから、他のことを考えてた方がたくさん捕れるって言われてました」
水深20メートルの夜中の海でリリックを綴る、間違いなく異色の制作方法だ。
潜り漁の最中に生まれたのが、柊人の名を一躍広めた「好きなこと」だ。
いつか好きなこと だけで稼ぐまで
今は嫌なこと だけどやり続けて
俺の好きなこと だけで稼げたら
今までの 全てだってきっと 無駄じゃないだろ柊人「好きなこと」
「『好きなこと』のリリックはわかりやすいと思うんです。自分自身に言い聞かせてる感じで。そうなりたい自分と、そうでない自分。理想と現実の両方がある。
ずっと、楽な道を選びがちな人生でした。けど、CHOUJIさんは周りに与えることばかりを意識してる人で。しかも、自分がやりたいことはカマして、好きなことで稼いでる。そういう姿を見てたら、自分もああなりたい、嫌なことも全力でやりながら、いつか好きなことをやりたいなって」
根本的には、人は変われないかもしれない。けれど、目の前で憧れの先輩が見本を見せてくれることは、自分にとって大きな力になる──柊人は、時に言葉に詰まりながらも、自分自身がどのように変化して成長していったのか、丁寧にその歩みを語る。
沖縄の先達の背中を見て、海と格闘しながら生まれた「好きなこと」。
ただし、良い曲が生まれても、それが多くの人に聴いてもらえなければ食べてはいけない。「好きなこと」が日本中に広まったのもまた、CHOUJIのお陰だった。
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