仮想世界にしか救いがないのなら──田中敦子×大塚明夫×山寺宏一が語る『攻殻機動隊』
2024.05.18
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この記事の制作者たち
悲しいとか過去痛み でも知ってる楽しいとか今未来 暴かれるあの嘘とか死 まだ忘れてない あの人魂Masato Hayashi「Lava Lamp」
もしあの時していれば、仮にしていなければ──「人生にたらればはない」とよく人は言う。しかし、2度の改名と3度の活動休止、そして懲役刑を経たラッパー・Masato Hayashiの話を聞いていると「たられば」という言葉を考えざるを得なかった。
選択と奇跡の連続によって今があるんだとあらためて思い知る。想像を絶する経験をしてきたというのに、いく度となくMasato Hayashiは「面白そう」「楽しい」という言葉を繰り返す。それはまるで、過去の痛みを口にすることで内面から追い払うかのように筆者の耳には聞こえた。
目次
- 赤羽で日中、Masato Hayashiと落ち合う
- 不良とも、オタクとも
- 「もし友だちが電話に出てたら、俺はラップやってなかった」
- フローが大事。リリックなんてどうでもいいと思ってた
- 自分の思ってることを吐き出さないとマジ意味ねえ
- シャブ中たちの洗脳部屋 一世一代のバックれ
- 家族のため、子どものため──再びの活動休止
I'm a 1991 天国 地獄も見たMasato Hayashi「Reflex」
”せんべろ”で有名な街、赤羽。平日の昼間にもかかわらず、飲み屋街には活気が溢れている。半袖でちょうど良いくらいの暖かい気候で気分も弾む。
昼の眩しい光が差し込むスタジオでインタビューの準備をしていると、見知らぬ番号から着信が入った。
「Masatoです。今近くにいるんですけど、5分か10分遅れます。すみません」
ラッパーの取材は大抵、本人が時間通りに来ないので定刻で始められることは少ない。Masato Hayashiはわざわざ電話を入れ、しかも電話の通り、約束の時間から数分遅れただけで到着。
合流するなり、取材スタッフ一人ひとりの手を握り「今日はありがとうございます。よろしくお願いします」と頭を下げる。
ソファーに腰掛け、エナジードリンクを口に含む。喉を通り過ぎるか、過ぎないかの時点でインタビューは始まった。
Masato Hayashiは、東京都八王子市生まれ。地元・八王子の小中学校に通い、典型的な中流家庭で育った。しかしバブル崩壊の余波は、まだ幼かったMasatoの家も襲った。父親が営む事業が苦しくなったのだ。
「近所の団地に住むヤツらと遊んでたんですけど、その友だちみたいにガチでゲットーじゃなかったです。うちは全然普通でしたね」
しかし、小学生の頃から素行は決して褒められたものではなかった。
「今だと本当に申し訳ないですけど、◯を◯◯◯たり援交してる女子高生と遊んだり、万引きしたり……でも、それくらいですね」
通っていた小学校も、荒れていたという。
「学級崩壊みたいになってて、先生も心を病んでどんどん辞めていきましたね」
学区内の中学校には進まなかったというが、その理由がまたマセている。
「よく他の小学校に遊びに行ってて、すげえかわいい子がいたんすよ。その子のケツを追いかけて、学区外の中学校に入りました」
小学校6年生にして、女の子を追いかけて学区外の中学校に進むという行動力に驚く。
邪な気持ちで進んだ中学校にはたまたま悪い先輩が多く、その先輩たちとつるむようになっていく。
「5校対5校で乱闘する、みたいな。しかもみんなナイフとか持ってきてて。俺は『うわ、ナイフ持ってきてんじゃん。ちょっと嫌だな』みたいな気持ちだったんですけど、みんなやる気満々だったんで、まあ行くか、みたいな感じで」
結局誰もナイフを使うことはなく、打撲程度の怪我で済んだという。不良漫画を地で行くような不良少年だったのかと想像しがちだが、意外な一面も垣間見える。
「当時、オタクや引きこもりの友だちとかがパンクとか聴いてて。音楽にあまり興味なかったんですけど、そいつらに曲を聴かせてもらっていいなって思って。当時はSum 41ってバンドをずっと聴いてましたね」
悪い先輩とつるみながらも、オタクや引きこもりの友だちがいる。相容れない両者のどちらとも仲が良かった。
「オタクはサブカルとか強いじゃないですか。俺らが聴いてたのはJ-POPだったり、そうじゃなくてもポップ寄りな音楽ばかり。
でも、オタクが聴くのは洋楽だったり、マニアックな音楽。そいつらに、今で言うVlogみたいなのを見せられて、クレイジーでぶっ飛んでて。俺がそれまで触れてこなかったもので、そういうのが面白くて遊ぶようになったんすよね」
日差しが差し込み暑くなった室内でジャケットを脱ぎ、カットソー1枚になる。
「これ、友だちから借りパクしちゃってるやつだ(笑)。まだ連絡してなくて。大丈夫すかねえ?」とカットソーを指差しながら照れ笑いを浮かべ話を続ける。
「そいつらは中学生なのに一丁前にハッキングとかしてんすよ。『今からこのサイトハッキングするから』とか。面白くて後ろから見てましたね」
You're my girlfriend 俺ちょっとヤンチャPablo Blasta「Girl Friend」
この時、Masato Hayashiがもしオタクの友だちと関わりを持たず、乱闘を繰り返すだけの中学生だったら。
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