編集未経験、「好き」の一点突破でブチ上げたお笑い誌 『芸人芸人芸人』編集長・福田駿
2020.05.08
僕は遊戯王カードが出始めの頃に子供だった世代なんですが、あの頃はやってたけど今はもう十何年もやってないという人が大半ですよね。その後何年かに一度、それまでの定石をガラッと一変させる新システムが導入されて、どんどん高度なゲームになってきてるんです。詳しい歴史の流れは別の機会にじっくりご説明しますね。
とりあえず遊戯王の現状についてざっくり言うと、今はいかに「展開」していけるかが鍵になるゲームになっています。展開というのは、モンスターや魔法・罠カードを着々とセットし、思い描く陣形を作り上げること。先攻を取ると一足先に自分の陣形を完成させられるので、一般的に先攻有利のゲームと言われてます。
最初のターンからモンスターを何体も特殊召喚しまくるのが一般的なので、1ターン目の時点でほぼほぼ勝負が決まってしまうことだってあるんですよ。初期の遊戯王しか知らない人が見たら、1ターン目から盤面が賑やかすぎて驚くんじゃないかな。
オンライン取材にて、90分みっちり遊戯王について語った宮下
同じカードゲームでも、MtG(マジック・ザ・ギャザリング)はマナを貯めないと大技が出せないので、じっくりじっくり進行していくんですよ。僕はMtGがカードゲーム史上最もバランスのいいカードゲームだと思ってます。
対して、遊戯王は最初からフルパワーなのが持ち味。1度の展開にけっこうな時間を要するので「ソリティア」なんて揶揄されたりもしています。実際僕もよく1人でデュエルするんですよ。例えば新しい戦法を試したいときには、もう片方のデッキはその戦法を知らないていで展開していって、どれだけ通用するのか試したりします。
でも、こういった特殊召喚をはじめとした「先攻展開」有利の状況に一石を投じる「手札誘発」というタイプのカードが出てきました。要はこれ、手札にあればいつでも発動できるモンスターカードです。その代表的な1枚である「増G(増殖するG)」というカードは、相手がモンスターを特殊召喚するたびに1枚ドローができる。つまり相手が「展開」すればするほど自分も対策を立てやすくなるってことですね。これがあると後攻にも勝ち筋が見えてくるわけです。このカードがあると、先攻展開されてもドローをたっぷりして手札をたくさん持った状態で迎え撃てる。
ちなみにこういう対策カードのことを決闘者(デュエリスト。遊戯王OCGのプレイヤーのこと)は「メタ」と呼んだりしていて、増Gの場合は「展開メタ」のカードですね。他の展開メタとしては、おそらく今一番よく使われてるカードで「灰流うらら」というカードがあったりします。こういうカードで先攻の展開の鍵になっているカードを止めると、その後、全く動けなくなる。「増Gでドローされちゃうからこのターンは展開せずに終わろうかな」とか日和ってるところを刺す! というのが、後攻の戦い方です。
こうしたアップデートを繰り返してはいるものの、いまだに先攻が圧倒的に有利な情勢は続いています。「じゃんけんに勝てばデュエルも勝てる」なんて言われているほどです。
でも僕の「ジャックナイツ」というデッキは、いかに後攻でまくる(反撃する)かを考えたデッキです。僕は後攻を諦めたくないんですよ。後攻の戦い方は、先攻が展開した盤面に対してどう突破していくかを考える、詰将棋みたいな感覚です。
宮下のデッキ(提供:宮下兼史鷹)
相手に好きなだけ展開させて、いかにそれを突破していくか? を考えるのが好きなんです。なんていうか、悔しいんですよ。大好きな遊戯王をじゃんけんで勝負が決まるようなゲームにしたくないし、もっと言えば僕が後攻で相手の展開を突破した後さらに突破し返されて、さらにまた突破してを繰り返して、最終的にお互い手札ゼロ、場にモンスターもいない状況ですべてを懸けて「ドロー!」とカードを引くヒリヒリする戦い、僕はそういうバトルがやりたい。
僕のお笑いへのスタンスも遊戯王と同じです。これはけっこう意識してやっています。コンビの中で言えば、わかりやすいキャラといじりやすさで先頭を切って表に出てくれる草薙は先攻タイプです。そうすると必然的に生まれるのが後攻、お笑いでいうところの「じゃない方」、つまり僕です。
養成所時代から草薙のいじられる力みたいなものはすでに確固たるもので、草薙と組むことを決めた時点で僕は「じゃない方」を受け入れました。「宮下はプライドが高くてまだ”じゃない方”を受け入れてない」みたいな見方をされることは今でも多いんですけど(笑)。
結成当時の宮下草薙(提供:宮下兼史鷹)
こんなにおもしろいやつを世に出さないわけにはいかない、そのためには自分は「じゃない方」としてこいつのサポートをしていくべきだっていう覚悟が最初からあるんです。番組に出る前にがっつりシミュレーションするって話をさせていただくことがよくあったんですが、実は今ではほとんどしてません。最近では前に出る草薙のアシスト役がほとんどなので。
それに、「じゃない方」とされていた諸先輩方もけっこう後からぐっと追い上げるじゃないですか? そういう意味でも、お笑いにも後攻の戦い方というのがあると思っています。
例えば、タモリさんは前々からあえてコンビの目立たない方に集中的にボールをパスして、バラエティ番組の予定調和を崩すのが好きな方です。『タモリ倶楽部』に出させていただいたときも、タモリさんが僕をいじる流れを作ってくださって、その後タモリさんに“ハマってる”若手代表として再度出演させていただきました。
なかでも僕が一番感謝しているのは三四郎の小宮さんです。小宮さんがラジオで僕のことをいじってくれたおかげで、『アメトーーク!』で小宮さんを後ろから刺して反撃する流れができた。あのマジゲンカのくだりで僕のバトル好きというか、ちょっと好戦的な部分にスポットを当ててもらえたので、本当にありがたかったです。直接お礼は伝えられてないんですけど……。でも、そういうチャンスを与えてくださる方のおかげで、「じゃない方=後攻」にも勝ち筋が見えてくる。
もっと言えば、今のお笑いは「じゃない方」という属性だけじゃ戦えない。「じゃない方」というシステム自体がかなりこすられたので、もうそれだけじゃ個性として機能しません。
「じゃない方芸人」という括りが生まれた頃と比べると前例がすでにたくさんあって、扱い方の教科書が決まってきている。それに、世の中から「じゃない方」として見られて役割を固定されるまでのスピードがものすごく早くなってるなと感じます。そんな中、たくさんいるうちの1人の「じゃない方」としてどう振る舞っていくのかを考えなきゃいけない時代だと思っています。
僕は教科書に載ってないような、誰も見たことのない「じゃない方」になりたい。変に思いつめてるわけでもなく、「じゃない方」だからこそできることはいろいろあるので、戦い方を考えるのは僕はけっこう楽しいんです。じっくり思考して、後ろから刺す。やっぱり後攻が大好きなので。

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